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横浜地方裁判所 平成4年(行ウ)20号 判決

神奈川県逗子市池子三丁目二番二二号

原告

清水要

右訴訟代理人弁護士

乾俊彦

田中俊夫

右乾俊彦訴訟復代理人弁護士

小林秀俊

工藤昇

神奈川県鎌倉市由比ガ浜四丁目六番四五号

被告

鎌倉税務署長 澤内弘道

右指定代理人

秋山仁美

實川嘉晴

比嘉毅

中澤彰

齋藤春治

根岸良一

信太勲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告に対し、平成二年七月一二日付けでした、昭和六三年度分所得税の更正の請求を棄却する旨の処分(更正すべき理由がない旨の通知処分)を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、所有していた土地の譲渡による所得を、いったん事業所得として確定申告した原告が、右所得は本来譲渡所得として申告されるべきであったのに、税理士の過誤により事業所得として申告してしまったなどとして更正の請求をしたが、これが棄却されたので、その取消を求めている事案である。

二  争いのない事実

1  課税物件の譲渡等の経緯

(一) 原告は、北商事株式会社(以下「北商事」という。)及び岡本俊八から、別紙1「譲渡物件の概要」〈1〉ないし〈4〉及び〈8〉の1の各土地をそれぞれ購入して分筆等したうえ、これらを他に売却又は他の土地と交換した。

その経過は別紙1記載のとおりである。すなわち、

(1) 原告は、昭和五四年一二月二一日、北商事から別紙1〈1〉ないし〈4〉の各土地を一二三七万七〇七八円で買い受け、同五五年五月二二日から同年一一月五日にかけて、別紙1〈1〉の土地から別紙1〈5〉ないし〈7〉の各土地を分筆し、これらを同年六月二日から同五六年一月一九日にかけて、別紙1売却先等欄記載のとおりそれぞれ売却した。

(2) また、原告は、昭和五五年一月一五日、岡本俊八から別紙1〈8〉の1の土地を一〇八〇万円で買い受け、同年六月一日、これから別紙1〈8〉の2の土地を分筆した後、同五九年三月二四日、山田喜久治との間で交換差金五〇〇万円を支払ったうえ、右〈8〉の2の土地を別紙1〈9〉ないし〈11〉の各土地と交換した。

(3) さらに原告は、昭和六三年九月七日、別紙1〈1〉の土地から別紙1〈5〉ないし〈7〉の各土地を分筆した残地(以下「分筆後の別紙1〈1〉の土地」という。)、並びに別紙1〈2〉ないし〈4〉及び別紙1〈11〉の各土地を合筆して、別紙1〈12〉の土地としたうえ、同日、これから別紙1〈13〉の土地(以下「本件土地」という。)を分筆した。

(4) そして、原告は、昭和六三年九月二七日、株式会社技公に対し、本件土地を代金一億九六〇〇万円で売り渡した。

(二) なお、以上のような本件土地に関わる売買等も含めて、原告は、昭和四七年以来、別紙2「過去の譲渡の経緯」記載のとおり、土地の購入、売却等を行なった。

2  課税処分の経緯等

(一) 原告は、被告に対し、平成元年三月一五日、昭和六三年分の所得税につき、総所得金額を六八万一八四八円、分離事業所得金額を一億四五七八万七五七三円、申告納税額を三六四〇万九四〇〇円とする確定申告書を提出したが、その際、本件土地の譲渡に係る所得(以下「本件所得」という。)を事業所得として申告した。

(二) 原告は、被告に対し、平成元年六月一三日、その後行なわれた鎌倉税務署の職員による調査に基づき、昭和六三年分の所得税につき、総所得金額を一億五九三三万八一六二円、分離事業所得金額を零円、申告納税額を八五八二万一四〇〇円とする修正申告をしたが、その際も本件所得を事業所得として申告した。

(三) 原告は、被告に対し、平成元年一一月二〇日、昭和六三年分の所得税につき、総所得金額を六八万一八四八円、分離短期譲渡所得金額四五〇万一二二一円、分離長期譲渡所得金額一億五四四一万二八一七円、事業所得金額を零円、申告納税額を四〇七八万一四〇〇円とする右所得税更正の請求書を提出して、その旨の請求をした。

(四) 前記修正申告に伴って被告がした過少申告加算税賦課決定、原告の更正の請求に対する被告の処分、並びに審査請求及び裁決の経緯等は、別表「本件課税処分等の経緯」のとおりである。

三  争点

本件の争点は、「本件所得は、事業所得ではなく譲渡所得に該当する。したがって、前記更正請求の内容に誤りはない。」との原告の主張の当否である。

1  原告の主張

本件所得は、事業所得ではなく譲渡所得に該当する。すなわち、

(一) 原告は、土木建築業を営む三晃建設株式会社(以下「三晃建設」という。)の代表取締役であるが、健康を損ねたために同社の経営状態が悪化して負債が生じ、しかも原告は昭和六二年四月に貸家の建築資金として銀行から約二〇〇〇万円を借り入れたため、それらの返済に充てる目的で本件土地を売却したのである。また、原告が、本件土地の基本部分である別紙1〈1〉の土地を取得した目的は、原告自身の居住の用に供するためであり、それゆえ原告は、別紙1〈1〉の土地を三晃建設の資材置場及び土砂の捨て場所として利用していたのである。なお、原告は、三晃建設の代表者であるが、不動産の分譲、販売等を職業としていない。

(二) また、原告は、別紙2のとおり、土地の購入、譲渡等を繰り返し行なっているものの、これらの取引は、別紙1〈1〉の土地購入時の特約(法地については隣接地の所有者から分筆譲渡の申し入れがあれば、それに応じるというもの)の履行(別紙1〈5〉ないし〈7〉の各土地)、友人の強い希望(別紙2〈2〉ないし〈6〉の各土地の購入、同〈11〉、〈18〉の各土地の譲渡)、又は納税(別紙2〈10〉の土地)のためなどの事情で購入・譲渡したのであって、いずれも一時的、臨時的な資産処分であり、事業目的によるものではない。

(三) 本件所得が、前記修正申告書において、事業所得とされたのは、担当税理士の過誤によるものであり、右申告がされたことをもって本件所得を事業所得とすべきではない。すなわち、昭和五六年当時、原告は、所得税の申告手続をすべて高木由安税理士に依頼していたところ、高木税理士は、所得税についての無理解と原告が同五五年度にも土地の譲渡を行なっているということから、同五六年度における原告の土地譲渡による所得が事業所得に当たるものと誤解したうえ、原告に対し、事業所得とした方が税務調査を受けにくく、納税額も少ないなどと誤った説明をし、税務知識に乏しく、右説明を誤信した原告の承諾を得て申告したものである。そして翌年度以降は、機械的に前年度と同じく申告していたのであり、本件所得も、このようにして事業所得として申告されてしまったのである。

(四) 本件所得は、所得税基本通達三三-三ないし五の趣旨に照らせば、譲渡所得となるものと解すべきである。

2  被告の反論

(一) (所得区分について)

本件所得は、たな卸資産の譲渡又は営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得に該当する(所得税法三三条二項一号)。その根拠は、以下のとおりである。

(1) 原告は、逗子市池子を中心として、昭和四七年から同五九年にかけて、土地を取得し、同五五年以降、これを売却するなど、不動産の譲渡を繰り返し、その回数は、同六三年までに一〇回に及び、右の期間の土地譲渡による所得を、同五六年以降、事業所得として申告し、これらの土地をたな卸資産として計上したほか、その維持管理費用を事業所得に係る必要経費として申告している。

(2) 原告は、別紙1〈1〉の土地を居住の用に供する目的で取得したものである旨主張するが、右土地に自宅等を建設しておらず、居住もしていない。

また、仮に原告の主張のとおり、右土地が、居住の用に供するために取得されたものだとしても、土地の譲渡による所得の性格は、譲渡を決定した時点における所有目的によって決定されるところ、同土地(ないし、前記分筆後の別紙1〈1〉の土地)は、その後の原告の事情の変化により、遅くとも昭和五六年以降においては、たな卸資産に変化したものである。

(3) 前記高木税理士は、原告の昭和五六年以降の申告に際して、原告の土地譲渡に係る所得を事業所得として申告することを説明し、その承諾を得ており、原告も、前記修正申告の際、鎌倉税務署所部職員から内容について説明を受けたうえ、申告書に自ら署名捺印しているのであるから、右修正申告が税理士の過誤によるものである、という主張は失当である。

(二) (通達違反の点について)

原告の引用する通達は、固定資産として極めて長期間保有してきた土地を、営利を目的として継続的に譲渡した場合や区画形質の変化を加えて譲渡した場合の所得区分についての取り扱いを定めたものであるが、本件土地は、たな卸資産であって、固定資産ではないから、右の通達を本件に適用する余地はない。

(三) (譲渡所得の金額について)

仮に、本件所得が譲渡所得であるとしても、原告は本件土地譲渡による譲渡所得の金額及び計算過程について、本件更正の請求書及びその添付書類に記載されたとおり主張すると解されるところ、右請求書において、本件土地取得費としている石積擁壁工事費用、盛土整地代、水道工事代及び弁護士費用の一部は、いずれも本件土地の売上原価に含まれない。

第三当裁判所の判断

一  本件は、所得税更正請求をした原告が、その棄却処分の取消を請求するものであるが、右の更正請求は、いったん申告により確定した税額を、自己に有利に変更しようとするものであるから、自己の提出した申告書の記載が真実と異なることについては、原告の側で主張・立証すべきであるところ、原告が本件所得につき、これを事業所得として計上した確定申告書を提出したことは前記のとおりである。

この点につき、原告本人は、被告所部職員の強引な指導に基づき、本件修正申告書を提出した旨供述するが、そうであるからといって、原告の右の点に関する主張・立証責任が、被告に転換するものでないことは明らかであるから、本件においては、原告が、本件所得が譲渡所得に当たることを立証する必要があると解すべきである。

二  次に、本件所得の所得区分について検討する。

1  所得税法は、資産の譲渡による所得を譲渡所得と定め(同法三三条一項)、たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む)の譲渡、その他営利を目的として継続的に行なわれる資産の譲渡による所得を譲渡所得から除外している(同条二項一号)。その趣旨は概して臨時的、偶発的に発生する所得については、計画的、経常的に発生する所得に比較して担税力において劣るところから、これを譲渡所得とし、もって計画的、経常的に発生する所得と区別して課税の対象にするところにあると解される。そうであれば、資産の譲渡による所得が、譲渡所得に該当するか、たな卸資産(これに準ずる資産として政令で定めるものを含む)の譲渡、その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に係る所得に該当するかを判断する基準は、その所得が、一時的かつ臨時的な資産の処分による所得か、計画的、経常的に発生する所得かによるべきであり、具体的には、当該土地の取得及び保有の状況、税務申告の状況、譲渡人のそれまでの土地の売買回数、数量、金額等、譲渡人の職業及び経歴等の諸般の事情を勘案して譲渡人の当該処分の目的、意図を合理的に認定し、右判断をすべきである。

また、当該土地取得後の所有目的の変更の有無が問題となる事案においては、変更があったと主張されている時期の前後において、当該土地に係る会計処理、税務申告等に変化があったかどうかなどの事情をも勘案して、右判断をすべきである。

これを本件についてみると、関係各証拠からは、以下の事実が認められる。(なお、かっこ内に記載した証拠により認定した点を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。)

(一) 原告は、昭和四四年、土木建設業を営む三晃建設を設立し、平成三年一二月まで同社の代表取締役の地位にあったものであって、現在も取締役の地位にある(年月については乙九の一、二、原告本人)。

また、原告は、昭和五三年、酒井敏英と共に宅地建物取引等を業とする有限会社浜新商事(以下「浜新商事」という。)を設立し、現在も同社の取締役の地位にある(年月及び浜新商事の目的については乙一〇、原告本人)。

(二) 高木税理士は、昭和四六年ころ、三晃建設の顧問税理士となり、同五二年から原告個人の税務申告も担当するようになった(甲五七の一、証人高木由安)。

(三) 原告は、昭和五四年以前は個人として不動産の売却をしたことはなかったが、同五五年六月二日、別紙2〈9〉の土地を川崎俊雄に、同年七月一〇日、別紙2〈10〉の土地を井ノ上四郎にそれぞれ譲渡した。高木税理士は、これらの譲渡に係る所得を譲渡所得として扱い、その旨の同年度の確定申告書を作成した。

(四) 原告は、昭和五六年一月一七日、別紙1〈5〉の土地を武者侃に、同月一九日、別紙1〈6〉の土地を山田茂雄に、同年二月一三日、別紙1〈7〉の土地を浜新商事に、それぞれ譲渡した。

同年度の原告の申告に際し、高木税理士の事務所の職員で、原告の申告書作成の担当者であった竹渕勝之は、これらの譲渡に係る所得を、譲渡所得とした場合と事業所得とした場合の二通りの計算を行なったうえ、原告に対し、事業所得と譲渡所得とでは、必要経費に計上できる経費の範囲が異なることなどを説明して、原告から不動産の保有状態や取得目的を確認し、原告が、保有している土地を今後も継続して売却すると述べたことを受けて、高木税理士にその旨報告した(乙一、二、証人高木)。

右報告を受けた高木税理士も、そのころ、自ら原告と面会し、右譲渡に係る所得を事業所得として申告した方が大幅に経費の計上が認められることなどを説明し、原告から事情を聴取したところ、原告が、今後、継続的に銀行から融資を受けて土地を買い求め、これを造成して売却する旨述べたので、税務署の係官や同業者の意見も聞いたうえ、右所得を事業所得として申告することとし、同年度の確定申告書を作成した(乙一、二、証人高木)。

(五) 原告は、翌年以降も、別紙2のとおり、土地の売却を行なっていたが、引き続き原告の税務申告を担当した高木税理士は、これらの譲渡に係る所得について、いずれも事業所得として申告し、また、昭和五六年以降、原告が別紙2記載の土地を保有している間、これらの土地をたな卸資産として計上したうえ、それらの維持管理費用を事業所得に係る必要経費として申告していた。原告は、こうしたやり方について、異議等を述べたことはなかった(乙一、二、証人高木)。

(六) 一方、原告は、一級建築士である藤岡芳夫に対し、昭和五五年三月、別紙1〈1〉の土地に自宅、貸家及び三晃建設の事務所を建設するため、宅地造成に関する工事の計画図等の作成及び許可申請を依頼し、同年七月二二日には、この土地における右工事の許可の通知を受けた(甲二〇の一、二、二一の一、二、原告本人)。

(七) 原告は、昭和五五年及び同五六年に、分筆後の別紙1〈1〉の土地に造成工事、水道管工事及び盛土整地をした後、同五八年ころまで、三晃建設の資材置場と土砂の捨て場所に利用していたが、神奈川県企業庁水道局逗子事務所長に対し、同五九年一〇月一日、給水装置新設工事申請及び施行承認願を提出し、同年一一月二八日、右工事を完成させた(乙一七の一、二、原告本人)。

(八) 高木税理士は、平成二年一二月二〇日付けで、国税不服審判所長に対し、本件所得を事業所得とした本件修正申告に関して、過去の経緯を振り返ると、これを譲渡所得として申告すべきであった旨の上申書を提出した(甲一二)。

(九) なお、原告は、昭和二五年ころ、気管支拡張症に罹患し、同五八年からは、気管支拡張症、高血圧症により鶴見総合病院に通院していたが、同年七月六日、急性心筋梗塞の発作が生じ、同日から同年一〇月二〇日まで同病院に入院し、その後、同六〇年一〇月一六日まで、同病院に通院した(甲三六、三七、原告本人)。

また、原告は、同六〇年一〇月一七日から、気管支拡張症、高血圧症により東芝鶴見病院に通院し、同六二年一二月七日、慢性心不全、第一腰椎圧迫骨折のため、同病院に入院し、同六三年一月二二日に退院した。

さらに、原告は、同年一月一八日から横浜市立大学医学部病院にも通院し、その後、同年一二月一七日から、平成元年二月二八日まで同病院第一内科に入院し、退院後も同病院に通院していた(甲三六、三八、原告本人)。

2  そこで、以上の各事実から、本件所得が、事業所得に当たるか譲渡所得に当たるかを検討する。

(一) まず、本件土地の基本部分をなす原告の別紙1〈1〉の土地の保有状況をみると、原告は、土地取得後の昭和五五年三月、一級建築士である藤岡芳夫に対し、右土地に自宅等を建設するため、宅地造成に関する工事の計画図の作成を依頼し、同年七月二二日には、右工事の許可の通知を受け、同年及び同五六年に、同土地の造成工事のほか、水道管工事及び盛土整地をしているのであるから、この時点においては、原告は、同土地に自宅を建設する目的を有していたものと認められる。

しかし、前記のとおり、同五六年度の申告に際し、竹渕勝之が、原告に対し、その所有する不動産の保有状態や取得目的を確認したところ、原告が、保有している土地は今後も継続して売却すると述べ、高木税理士が原告から聴取した際も、原告は、今後も継続的に銀行からの融資で土地を購入して造成して売却すると述べたこと、原告が、同年以降、別紙2記載の各土地をたな卸資産として計上し、その維持管理費用を事業所得に係る必要経費として申告していたこと、また原告は、前記のとおり、同四七年から同五九年までの間不動産を九回にわたって購入し、土地の交換を一回、売却を八回行なうなど、不動産の売買等を反復継続的に行なっていたこと、原告は、同四四年、土木建設業を営む三晃建設を設立し、本件土地譲渡当時、右会社の代表取締役の地位にあり、その後の同五三年、別紙1〈1〉ないし〈4〉の各土地の売主である北商事の現場責任者であった酒井敏英と共に、宅地建物取引等を業とする浜新商事を設立し、本件土地譲渡当時、右会社の取締役の地位にあり、本件譲渡があった同六三年度には、右会社から年六〇万円の給料を受けており(甲一の一)不動産取引に一応の知識を有していると認められることなどからすると、遅くとも、同五六年度の税務申告時において、右土地を含めた原告の所有地は、原告の不動産業におけるたな卸資産に変化していた、というべきである。

そして、前記のとおり、原告は、同五六年から同五八年ころまで、右土地を三晃建設の資材置場及び土砂の捨て場所にのみ利用し、同五九年に至るまで下水道工事さえ行なわず、同土地に自宅等を建設して居住したこともないのであるから、同土地は、同六三年の売渡時に至るまで、たな卸資産の状態のままであったと認められ、また、他の同土地を含めた本件土地が、右売渡時に固定資産に該当するものであったと認めるに足りる的確な証拠はない。

(二) なお、原告本人は、別紙1〈1〉(ないし、分筆後の別紙1〈1〉)の土地に建物を建設しなかったことについて、公道に接続する入口部分の土地取得に関する訴訟が長引いたうえ、原告の病気が悪化したためであること及び右土地がくびれていて幅員が三メートルに満たなかったことが理由である旨供述しているが、当時は、右幅員が三メートルに満たなくとも、同土地に原告の自宅を建設することは可能(甲二一の二)であり、しかも、原告本人の供述以外に、これらの事情のために原告が同土地に建物を建設しなかったことを認めるに足る証拠は存しないから、右供述部分は採用できない。

(三) 次に、本件土地の税務申告の状況をみると、原告は昭和六三年分所得税の確定申告書の提出に際し、本件所得を事業所得として申告し、その後の修正申告においても同様の措置を取っていたものであるところ、原告は、右各申告が、高木税理士の過誤に基づくものであると主張し、前記のとおり、高木税理士は、国税不服審判所長に対し、原告から土地取得目的について確認することなく、しかも本件所得の性質を十分検討せずに、前年度に引き続き土地譲渡がされたということで事業所得として申告書を作成提出したが、再検討したところ譲渡所得とすべきであったことが判明した旨の記載のある上申書(甲一二)を提出しており、これによれば、高木税理士は、十分調査をせずに右各申告をしたかのようである。しかし、高木税理士は、東京国税局係官に対しては、原告から国税不服審判所における審判を有利にするために依頼されて右上申書を作成したのであり、原告から土地取得の経緯等の事情を聞いたうえ、事業所得に当たると判断して各申告に及んだ旨を供述し(乙一)、同旨の証言(証人高木)もしているのであるから、これらに照らして右上申書の内容をただちに信用することはできず、他に右各申告が高木税理士の過誤に基づいてなされたという事実を認定するに足る証拠はない。

(四) ところで、原告は、不動産の売買の回数が多いことにつき、別紙1〈1〉の土地から同1〈5〉ないし〈7〉の各土地を分筆したのは、右1〈1〉の土地を購入した際、隣接地の所有者から分筆譲渡の申し入れがあったときは応じるという北商事との特約に基づいたものである旨主張しているが、右主張を基礎付ける証拠が原告本人の供述のほかになく、かえって、この当時、北商事に勤務していた金子喜三郎が、右のような特約の存在を否定していること(乙一五)からすれば、右特約の存在を認めることはできない。

また、原告本人は、別紙2〈10〉の土地の譲渡は、三晃建設の滞納法人税について、原告が第二次納税義務者として横須賀税務署から差押処分を受けたために止むなくしたものである旨供述しているが、高木税理士は、原告が右滞納処分のために不動産を売却したことは聞いておらず、しかも、原告の当時の追徴税額は、二二〇万円程度であったと証言(証人高木)しているのであり、他に右供述を裏付けるに足りる証拠はないから、これを信用することはできない。

さらに、原告本人は、別紙2〈11〉及び〈18〉の各土地は、それぞれ友人の杉本光正及び増田三五郎から所望されて売却したものであり、また、別紙2〈14〉及び〈15〉の各土地は、友人の酒井敏英に懇願され、同人が経営している浜新商事に対して売却したものであるとも供述するが、たとえ、友人等に対する譲渡であるとしても、そのことだけで、その譲渡に係る所得が、事業所得に当たらなくなるわけでないことは明らかであり、他のこれらの土地の譲渡所得が事業所得ではないことを認めるに足りる証拠はない。

3  以上のような、本件土地の保有状況、税務申告の経緯原告の過去における土地の売買回数及び職業・経歴等からみると、本件土地の譲渡が、経営状態の悪化した三晃建設の負債返済のため、あるいは貸家建築の際、銀行から借り入れた約二〇〇〇万円の返済のためにされた一時的かつ臨時的な資産の譲渡であると認めることは到底できない。

三  なお、所得税基本通達三三-三ないし五は、固定資産に関する取り扱いを定めたものであるから、前記のとおり、本件土地が固定資産に該当しない以上、これらの通達の適用により、本件所得を譲渡所得と解すべきであるという原告の主張は、採用できない。

四  以上の次第で、本件所得が事業所得でなく譲渡所得に該当する旨の原告の主張は、その余の点について検討するまでもなくいずれも失当であって、本件処分は、前記第二の二の事実関係及び関係法規上、すべて相当と認められ、違法とすべき点は見当らない。

五  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋武憲一 裁判官 小河原寧 裁判長裁判官尾方滋は、転補のため署名捺印することができない。裁判官 秋武憲一)

別紙 本件課税処分等の経緯

別紙1 譲渡物件の概要

別紙2 過去の譲渡の経緯

別紙2 過去の譲渡の経緯

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